加藤です。
意外と知られていないことですが,民事訴訟(個人あるいは企業間の訴訟)では,例えば「被告は原告に100万円を支払え」,という勝訴判決をとっても必ずしも100万円を回収できるわけではありません。我が国の法制度上,「100万円を支払え」と裁判所に命じられているのにもかかわらず,相手方がこれを支払おうとしない場合,制裁となるものがほとんどないのです。
相手方から任意に払ってもらえない場合,強制執行といって,相手方の所有している財産(たとえば不動産や自動車等)を裁判所を通じて強制的に売却することを申し立て,換価することで得られた金銭で回収したり,あるいは,相手方がサラリーマンの場合,勤め先に給与の差押(原則給与の4分の1を,相手方ではなくこちらに払ってもらうよう通知します)を行ったり,自営業者の場合,売掛債権や預金口座の差押(売掛や預金をこちらに払ってもらうよう通知します)を行ったりして回収を試みることになります。要するに相手方が持っている金目のものを裁判所の手続を利用して,お金に替えようとするのです。
しかしながら,筋の悪い相手方になると,意図的に自宅を当初より妻又は旦那名義にしたり,金融業者と結託して実態のない担保権を設定するなど,「執行逃れ」を企ててくることもあります。
また預金や売掛先を差押をしたくても,どこに預金や売掛があるのか,調べる制度は,ほとんど実効性がありません。
なお,刑法上,強制執行妨害罪という犯罪があるのですが,同罪で立件するには強制執行を免れる意図が客観資料から明白でなくてはならず,そのハードルは,それなりに高いです。
このように,我が国の民事訴訟では勝訴判決をとっても,相手方次第では,必ずしもお金の回収が実現できていないのが実情なのです。
そして,実際の裁判では,裁判所から「判決になっても回収できるとは限りませんよね」と,この執行制度上の不備をつかれて,勝ち筋の事件であるのに,和解を勧められることもしばしばです。
我々弁護士が加入することを義務付けられている日弁連(日本弁護士連合会)は,従前より人権救済活動は熱心なのですが,このような私人間同氏のお金の回収に向けた法制度の提言をあまりしてこなかったように思います。
しかし,そもそも話し合いで解決できないから弁護士を立てて裁判をするのであって,たとえ裁判所に持ち込まれたからといって,和解することが本質的に難しい案件というのも相当数(私の肌感覚では全訴訟事件の3分の1~2分の1)あるのも事実です。
「裁判費用をかけて勝訴したのに実際には回収できない」と依頼者の方にぼやかれることのないよう,使いにくい司法の改善に向けて私達も尽力してゆきたいと思います。