１，松岡です。最近はあまり耳にしませんが、約半世紀前にはラジオの時報の際に「セイコー社の時計が○時をお知らせします。」という放送がなされていました。私は、昭和３６年の秋に横浜港に着いた船の食堂で最後の船内食になるカレーライスを食べながら、初めてこの放送を聞いたときの気持ちを忘れることが出来ません。
２，私がこの船内放送を聞いたのは、南米ボリビアからの引き上げで横浜に帰ってきたときでした。この放送を聞いて私が素直に思ったことは、「南米で成功した人は、日本ではその時計で時報を知らせるんだな。」と言うことでした。同時に開拓途上で何の土産もなく日本に引き揚げてきた我が家は、とても「成功者」とはいえないなと言う寂しい気持ちでした。間もなく日本にはセイコー社という大きな時計会社があり、くだんの放送はその会社の提供であることを知りました。しかし、そのときの事は今も忘れられず、秋が近い頃になると思い出してしまいます。
３，私の父は昭和３２年４月に丸亀市で経営していた青物市場の経営を断念し、南米ボリビアへ移住をしました。ボリビアでは移住者に５０町歩の開拓地が無償贈与されるとの話で、戦前満州の開拓経験があった父は、再度海外で一旗揚げる気持ちがあったのでしょう。当時の移民家族はその多くが移住地に永住する気持ちは持ちながら、移住地で成功して故郷に錦を飾ることを心の支えとして、日本を離れたのでしょう。そして故郷に錦を飾るときには、移住地において事業に成功して、「成功者」として日本に帰ってくるそういう思いを子供達も共有していたに違いありません。私もその１人として、「セイコー社」の時報を聞いていたのです。
４，毎回ブログ原稿のネタに苦労します。シリーズものにすればネタには苦労しないだろうと、当面はボリビアネタで行こうと思っています。５０年以上前の古い話で記憶も全く正確性が担保されていませんが、おとぎ話のたぐいとでもご了解いただきお付き合い頂ければ幸いです。
